スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

メドューサファイル・5

 丘の上を柔らかな風が吹き過ぎてゆく。エーゲ海を渡る風は爽やかで心地よい。微かに潮の香がする。それは、何故か人の心に郷愁を誘う。安らぎと切なさを併せ持つ香りだ。

 ペロポーネソス半島を吹き過ぎた風が、海を渡りセリーポス島に吹いているのかもしれない。
ペルセウスはふと思う。風は何処から来て、何処に行くのであろうか……。
人は何処から来て、何処に行くのであろうか……。
風は何も語らず、ただ吹き過ぎて行く。

 エウリュアレの髪が、風になびく。光を帯びた漆黒の髪が、蒼空にたなびき微かに煌めく。
見るともなく、ペルセウスはそんな姿を眺めている。

この時より以前に時はなく。これより以降に時はない。時の流れが止まるような風景だった。
ひと時は、確かに、永遠に変わる。

 丘の上に立ち、ペルセウスとエウリュアレは、海を眺めている。彼方で、海と空が交わる景色を眺めている。青き海と蒼き空が番って、そこに永遠が生まれる。
二人は、黙って、永遠を見つめていた。
スポンサーサイト

メデューサファイル・4

 少年が瞬きをする間もなく、彼女は薄衣を纏った姿に変わる。
白銀の輝きを持ったその布は、あくまでも薄く、しなやかで彼女に良く似合っているように感じられた。

 「あなたは…誰?」
虹の卵より産まれたばかりの彼女に、彼は問いかける。

 「……っ言うか、お前こそどこの誰だ? レディの名前を訪ねる態度かそれが?」
……ガラの悪いレディである。

 「ぼくは…ペルセウス(ペルシア人)の……」

 「ペルセウスか、良い名前だ」
彼女は無邪気な微笑を浮かべる。

 問いかけるまでもないのだ。 彼女は、少年の本当の名前を知っている。 彼女の本質は波動であり、その本地は根源の混沌である。 言葉を介さず、全てを知る。 それが彼女であった。 もっとも、脱皮を繰り返し、分裂を繰り返した末のひとつである彼女の能力は、全能には程遠いものであるのだが……。

 それでも、彼女は、もちろん知っている。 少年の隠された本当の名前も、隠されねばならないそのわけも……。

 「私は……そうだな……、XXXと呼ばれたこともあるし、XXXではXXXとも呼ばれた。 お前は何と呼びたい?」
面白そうに彼女は問いかける。 我を、名付けよと。

 「……空駆ける女性=エウリュアレ」

 「エウリュアレ。 素敵な名前だな。 今日から、私はエウリュアレと名乗ろう」
彼女は、本当に嬉しそうに笑った。

メデューサファイル・3

 砕け散った虹蛇の卵より、ひとりの女性が生まれた― 。
光輝去りし後、その場に忽然と立ち現れたその女性を、少年はそのように捉えている。

 長き黒髪を風になびかせ、荒涼たる丘に立つ彼女は、碧の瞳で少年を見据えている。その瞳は、蒼碧の宝石の如く、見る角度によって異なった色合いを見せる。深遠なる智と理を秘めた不思議な輝きを有していた。
紛れもなき奇跡と直面している事に驚くよりも、少年はその幻想的な美に心奪われて立ちつくしている。

 彼女は天より光臨せし女神であろうか……?
少年は、そのような事をぼんやりと考えている。

 「裸が珍しいか!?
スケベな子供だな、お前!」

 女神は、口が悪かった…。

 「えっ? いえ、あの…、虹を、真直ぐに立つ虹を見て、で、虹を追いかけて走ってたら、ここで光がぶわ~っと、で卵、虹の卵が割れて、お姉さんが! 凄く綺麗なお姉さんで、きっと女神さまだと思って! で……」

 「ああ、もう良い。お前、あまり利口じゃないな……。学校の成績、悪かろう?体育だけが取り柄というタイプだな。 だが、まあ、『凄く綺麗なお姉さん』という、実に正直な言葉が気に入った♪」
はなのかんばせを綻ばせて、“女神”はころころと笑う。

 「……あの、女神さま……。 出来れば、何か着て貰えませんか?」

 「あん? 今少し美を堪能させていてやっても良いのだぞ。 減るもんじゃなし」

 「ちょっと、目のやり場に困るもので……」

 「遠慮するな♪」

 「……綺麗なお姉さんのハイセンスなファッションが見たいな♪」

 「ふふふ、女心をくすぐる奴だな、お前♪」

 ……妙に息の合う二人であった。

メデューサファイル・2

 虹色に輝く直径一メートル程の光球。
そこから天空に虹が発するようでもあり、天空から降り注ぐ虹がそこに凝縮したようにも見える。

 眩い光でありながら、それは少年の目を焼くことはない。
それは網膜を通して、直接魂を揺すぶるような輝きだった。

 永遠であったろうか。
一瞬であったろうか。

 それを見つめる少年の周りで、風は流れる事を止め、鳥は羽ばたく事もなく静止する。
滴り落ちる汗は一粒の真珠の如く中に止まり、世界は静寂に包まれる。
その時、確かに、少年の周りで世界は静止し、時さえ流れを止めた。

 そして、ゆるやかに世界が時を取りもどす。
虹は輝くことをやめ、虚空に消えてゆく。
再び世界が動き出す。

 光球がひび割れる。
光が拡散する。そして、消えてゆく。
虹蛇の卵は孵化した。

メデューサファイル・1

 蒼空澄みわたり海とつがう。
天と海との境すら定かではなく、まるで永遠がそこに横たわっているかのようだ。

 中天に太陽があり、全てが煌めいている。
風は涼やかな草原の香を運ぶ。鳥は軽やか舞い、遥か空の高みを行く。
生きとし生けるものへの祝福に満ちた時間が、緩やかにたゆたっている。

 全てはあるがままに。
ただ、あるがままにある。それだけで万物は祝福されてある。
されど……。

 青天に虹が立ち昇る。
虹が垂直に太陽と大地を繋ぐ。
夢幻の如き七色の光の柱が屹立する。

 エーゲ海を臨む海辺の街で、ひとりの少年が、この不思議な虹を見上げていた。
好奇心に満ちた少年は、その虹の立ち上る根源に強くひかれた。
そして、少年は走り出す。

 人々で賑わう市場を抜け、緑なすオリーブ畑を越え、なだらかな丘の麓の牧草地を駆け抜ける。
滴る汗を拭おうともせず、飛沫をあげて小川を蹴散らして、街の境を越えてどこまでも虹を目指す。

 たぎり立つ好奇心に胸を焦がし、未知なるものを追い求める。
ただひたすらに、ただひたむきに、少年は走り続ける。未知なるものへの憧憬のみに心満たされて。

 光の屈折による現象であり、実態の無い幻であるはずであった。
届かぬ想いであるはずだった。
しかし、この時、少年は虹の根源にたどり着いた。

 丘の上の荒涼たる岩場の真中から、虹が屹立していた。
その根源たる光の卵から、天空に向かい七色の光が立ち昇っている。
虹蛇の卵がそこにあった。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。